私たち生存のためのコロナ対策ネットワークは5月21日、休業補償の実態と法的論点について、記者会見を行い、多くの記者たちに実情を訴えました。30名ほどの記者が参加しました。その際の要旨を、下記の通り紹介します。

生存のためのコロナ対策ネットワーク、指宿昭一弁護士による解説

※当日のレジュメはこちら

①多くの場合、休業手当を請求できる

休業手当は、法的には労働基準法26条と、民法536条2項に基づいて請求できるものと考えられます。

労働基準法26条

(休業手当)第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期中当該労働者に、その平均賃金の 100 分の 60 以上の手当を支払わなければならない。

民法536条2項による休業時の支払い義務

民法には、以下の規定があります。

(債務者の危険負担等)第536条

第2項1文 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。

今回多くの企業が行う休業は、新型インフルエンザ等対策特別措置法で定める「協力」や「要請」でなく、会社の経営判断で行ったものです。また、施設使用停止等の「協力の要請」や「要請」が出されている場合でも、あくまでも「要請」なので、(法的には)休業するかどうかは会社の判断で行うことであり、休業した場合には「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたると考えます。

そして、たとえ「指示」(特措法45条3項)が出た場合でも、労働者を自宅勤務などの方法により業務に従事させることができるか、他に就かせることができる業務があるかを検討すべきであり、そのような可能性があるのに労働者に休業を命じたとすれば、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたることになります。

また、民法536条で見ても、使用者の「責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に該当するでしょう。

②労働基準法と民法の規定の相違点

労基法と民法では、2つの相違点があります。一つ目は要件の違いです。労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、「使用者側の領域において生じたものといいうる経営上の障害など(地震や台風などの不可抗力は除く)」という意味です。これに対して、民法536条2項本文の「債権者の責めに帰すべき事由」は「故意、過失またはこれと同視すべき事由」を意味します。民法よりも労基法の「事由」の方が広いとされています。

二つ目は、労基法の違反には罰則があるのに対して、民法の方は罰則がないことです。労基法26条には違反せず、民法536条2項に従って支払いをしていない場合には、罰則はなく、法的な支払い義務のみが生じるということになります。

また、労基法は行政による取り締まり法規という意味もあるので、労基法違反の場合は労働基準監督署による行政指導(是正勧告など)の対象になります。労基法26には違反せず、民法536条2項に従って支払いをしていない場合には、労基署は行政指導ができません。ただし、賃金全額を支払っていないという意味で、労基法24条1項違反が成立するので、その意味で労基署は行政指導をすべきです。

③労基法26条の休業手当が実際は「4割」程度しかもらえない問題

労基法26条は休業手当として「平均賃金の 100 分の 60 以上」を支払うことを義務付けていますが、この「平均賃金」の定義は労基法12条1項に規定されています。

(定義)

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下回ってはならない。(以下各項省略)

フルタイムで働く人では、次の計算式になります。

平均賃金=3ケ月の賃金の総額÷その期間の総日数

例えば、月給30万円の労働者の平均賃金は以下のように計算されます(賃金締切日月末、休業開始4月1日。1~3月の総日数を90日とする)。

平均賃金=30万円×3月÷90日=1万円

この労働者の4月の出勤日が20日だとすると、休業手当は以下のように計算されます。

休業手当=1万円×20日×60%=12万円

つまり、月給が30万円なのに休業手当は12万円(月給の40%)にしなからないのです。このような判断になってしまうのは、行政解釈が「休日と定められている日については、休業手当を支給する義務は生じない。」(昭和24.3.23基収4077号)とされているためです。つまり、労基法26条の休業手当は、実質的に労働者の賃金の4割程度の支払を義務付けるものにすぎず、これでは労働者は到底生活ができません。

労働組合の交渉の結果取り返した事例と現在も闘争が続いている事例の紹介

※当日の資料はこちらから

この日の会見では、生存のためのコロナ対策ネットワークが主催する相談ホットラインに参加した各労組の闘争事例も紹介しました。今回は9件の事例を紹介しました(資料ではその他8件の事例も紹介)が、どれも会社は、労働組合が要求しなければ休業手当を出そうとしなかった事例ばかりです。

しかし、労働組合で要求し、交渉した結果、休業手当が10割補償を勝ち取れた事例も数多くあります。今回紹介した事例では、首都圏青年ユニオンが取り組む「富士そば」や総合サポートユニオンが取り組む「コナミスポーツ」の事例があります。これらは非正規雇用労働者の休業補償10割を実現させたものとして、大きな成果と言えると思います。非正規雇用労働者はシフト制で働く労働者が多く、「シフトに入っていないから」と休業手当を払わない事例がよくあります。しかし、契約上の内容もしくは、実態に応じて、休業手当は請求可能です。

また、会社が休業手当を払わず、有給休暇を先に使うよう求められた人たちも数多くいます。総合サポートユニオンが取り組むコナミの事案では、不当に使わせた有給休暇を回復させるよう求めています。

そして、同じく総合サポートユニオンが取り組んだ大手百貨店に入っている化粧品店の事例でも、10割の休業手当を獲得しています。その当事者は会見にて、「休業手当を6割もらって十分じゃないかといわれるが、私たちはお小遣い稼ぎでやっているわけではない。生活が大変だ」という趣旨の話をしていましたが、まさにその通りです。当事者はみな、生計を立てている労働者です。休業手当が6割では足りません

しかし、いまだに休業手当を適切に支払わない企業はおおく、現在も労働組合が交渉しているなか、誠実に対応しない事例も多くあります。

日本労働評議会はロイヤルリムジン東京と団体交渉をしています。ロイヤルリムジン東京に対し解雇の撤回を申し入れ、それは実現しました。しかし、従業員に対し休業手当を6割しか払わないといっています。また、自分たちの責任を放棄し、みなし失業手当がでたら利用してほしいというのです。引き続き、10割の休業補償を求めて闘争が続いています。

東京東部労組が団体交渉を行う市進学院では、予備校講師の休業手当は事務を行った時間分しか払わないといいます。講師の方たちは授業分を「コマ給」としてもらっていましたが、こちらの休業手当をだしてくれません。東京東部労組は引き続き「完全な休業補償」を求めて闘っています。

また、同じく東京東部労組が団体交渉をする「阪急トラベルサポート(HTS)」の派遣添乗員の事案があります。労働者たちは登録型派遣で働いています。会社は添乗員に休業補償を10割支払うと通知していますが、その支給対象を「口頭で合意しているツアーで、コロナウイルスの影響によりキャンセルになったもの」としています。しかし、そもそも今後は旅行の企画すらなくなり、「合意しているツアー」が存在しなくなります。多くの派遣添乗員は無収入の状態に追い込まれるのです。東部労組HTS支部では会社と業界団体に対して、「ツアーがない期間の休業補償」を行うよう要求中です。

東ゼン労組が取り組む英会話学校のシェーン・コーポレーションでは、休業中、給料を全額払っているのですが、これは「休業手当」ではなく、後日行う「補講」に対する「前払い金」としてみなすといっています。これは、コロナウィルス禍の後の補講等の所定外労働に対する前払い金なのです。今後、補講を行った際にきちんと賃金が支払われない可能性があるので、団体交渉で適切に休業手当として支払うよう求めています。

これらの事例は今後も引き続き闘争を行っていくので、ぜひ応援よろしくお願いします。

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