提言:生存する権利を保障するための31の緊急提案

2020年4月24日 発表

生存のためのコロナ対策ネットワーク

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 すべての人の生存保障を実現することなく感染拡大の防止は不可能であるとの基本的認識のもと、以下、提言する。

 本提言における重要な視点は、第一に日本の社会政策の「平時」からの実施体制が不十分だということである。日本の福祉は企業中心的に編成されているために、労働者の生活を直接的に保障する機能が弱い。また、極端なワークフェア政策によって、生活困窮者を遠ざける差別的な構造を持っている。さらに、近年の公務員の削減・非正規化は行政の政策実施体制そのものを脆弱化させてきたのである。

 第二に、女性、外国人、非正規雇用などあらゆる差別がコロナ危機によってその弊害を増大させている。既存の社会政策に埋め込まれた差別構造が、生存権の保障を不十分にし、結果的に感染症対策を困難にしている。

 生存権の保障は、実効的で反差別的なものでなければならない。

■休業・失業

①雇用調整助成金の上限額の引き上げ、全額助成の実施

 解雇や無給の休業(休業補償無き「自粛」)を防ぐために政府が行なっている雇用調整助成金の特例措置だが、企業負担があるために利用されていない。企業側がより利用しやすくするために上限額を引き上げ、全額助成も実施すべきである。

②労働者側から休業補償を請求する仕組みを作る

 雇用調整助成金は、企業側が休業補償を実施したのちに、企業が申請し、企業に支払われる。雇用調整助成金を請求していない事業所の労働者に国が休業手当を立て替え払いするなど、労働者の意向が反映される仕組みを作る必要がある。

③労働組合の役割の強化

 休業補償の実施のためには企業との交渉が必要である。一〇〇%の休業補償を支払う(同時に雇用調整助成金を請求する)ことを求める強力な労働運動が必要である。

④休業労働者に雇用保険の失業給付を支給する

 東日本大震災の際にも使われた災害時の「みなし失業」を適用し、離職していないが事業所の休業・業務縮小によって賃金も休業補償ももらえない労働者を、雇用保険の失業給付で救済すべきである。

⑤失業給付を非正規労働者にも使いやすくする

 雇用保険の失業給付は非正規労働者には特に使いづらく受給失業者の割合は小さい。三カ月の給付制限期間および離職理由による受給資格と給付日数の格差を一定期間適用停止する。

⑥失業給付を延長できる日数に災害時特例を適用

 失業給付には個別に給付日数を延長する制度があり、二〇〇九年には五五万人がその適用を受けた。東日本大震災時には、通常の個別延長給付にさらに六〇日を加えて最大一二〇日とする特例が実施されている。今回も実施すべきである。

⑦コロナ蔓延を「災害」として認定する

 災害時には生活環境の確保をはじめ、税と社会保険料の減免猶予、医療窓口負担の免除、事務手続き簡素化など緊急措置が広く実施される。今回のパンデミックを災害対策基本法、激甚災害法等の災害として認定し、各緊急措置・特例を発動すべきである。

■住まい

⑧公的住宅の空き室の住居喪失者への無償提供

 リーマンショック時に公的住宅(公営・UR・公社)のストックを活用した先例がある。

⑨民間の空き家・空き室の借り上げと無償提供

 改正住宅セーフティネット法に基づく「セーフティネット住宅」等を活用し、民間住宅の空き家・空き室を行政が借り上げて住居喪失者に無償提供する。災害救助法に基づく「みなし仮設」制度に準じた制度を導入するべきである。

⑩ホームレス状態の生活困窮者への居宅移行支援

 生活保護申請時に住居喪失状態にある場合、劣悪な施設への入所が条件となる運用がなされている。個室提供を原則とし、速やかな居宅移行を支援する必要がある。

⑪生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金の拡充

 「常用就職をめざした求職活動等を行なう」という要件が残っており、自営業者、フリーランスのアーティストらは事実上、今までの仕事を断念しないと利用できない。求職活動の要件を外すべきである。資産要件の撤廃、支給期間の延長も必要である。

⑫家賃滞納者への立ち退き行為の一定期間禁止

 公的住宅では家賃の減免や家賃徴収を猶予できる制度を積極的に活用し家賃滞納者への立ち退きを禁止する。民間賃貸住宅の家主に対しても追い出し行為を行なわないことを政府が要請し、家主に損失を補償する制度を新設すべきである。

⑬追い出し屋規制法の制定

 現行法でも家賃滞納者を物理的に追い出す行為(自力救済)は違法であるが、より厳格に禁じるため規制法を制定する。同法案は二〇一〇年に国会上程されたものの不動産業界団体のロビー活動により廃案になった経緯がある。

■生活保護

⑭申請手続きの大胆な簡素化を進める

 申請者の感染リスクを低減するために、メールやFAX・郵送などによる申請受付を幅広く認めるべきである。申請の際の必要書類も最低限におさえ、書式を問わず受け付けるべきである。

⑮資産要件を大幅に緩和する

 少なくとも一定期間、貯蓄保有額を大幅に引き上げる。自営業者やフリーランスが排除されぬよう、自動車の保有要件を緩和する。住宅ローンを抱えている場合でも利用可とする。生命保険等の保有要件を緩和することなどが求められる。

⑯要件の一部緩和の周知徹底

 すでに厚生労働省から一部の要件を緩和する事務連絡が出されている。これを現場に徹底する。生活保護の実施機関が独自の規則で運用している場合も少なくない。

⑰家族や親族への扶養照会を一律に停止する

 家族関係に困難を抱える人々にとって、援助可能かどうかを尋ねる扶養照会は、生活保護の利用をためらう大きな要因となっている。また受給への審査に無駄な労力を発生させる。

■女性

⑱あらゆる政策を個人単位の支援という視点で形成

 男性世帯主主義を改め、女性や子どもに届く個人単位の支援という視点から政策が実施されなければならない。

⑲ジェンダーの視点からの統計整備

 実態に即した支援策を立案するため、感染や休業補償の実態などの諸統計の男女別数値や、シェルターの充足率の公表など、ジェンダー統計に留意する。

⑳給付金の支給のありかたと方法の改善

 ひとり親の子どもを対象にした児童扶養手当のさらなる増額や、DV被害者、個人の口座を持たない人に配慮した給付方法など、世帯単位でなく個人に確実に届く方法で給付を行なう。

㉑家庭外に安全な場所を確保する

 少女や子どもへの虐待・DV被害の相談窓口の整備、シェルターでの迅速な一時保護態勢など、「家庭外の安全な場所」を確保・拡大する。

■外国人

㉒国籍や在留資格を問わない普遍的な生存保障

 生活保護をはじめ、外国人は様々な社会保障制度から排除されている。今回の事態に関わる給付金も外国人を対象にするかどうか自体が検討される状況にある。日本に暮らすすべての外国人を対象とするよう制度改正すべきである。

㉓母語や「やさしい日本語」での情報発信の強化

 感染の拡大状況や医療機関の受診方法、休業時の給料補償、各種の社会保障制度について外国人が理解できる形での情報発信を強化すること。自治体窓口に通訳を配置して、言語上のハードルが制度利用の障害とならないことを保障すること。

㉔在留資格の制限を緩和する

 日本で生活する権利を保証し、在留資格に定められている活動に従事していなくとも、在留資格が失効することなく、当面の間、日本での滞在を許可すること。

㉕入管施設に収容されている外国人の仮放免

 入館施設は典型的な「三密」状態にある。クラスター化する危険性のある入管施設からの仮放免を認め、収容から解放すること。

■学生

㉖格差なきオンライン環境の整備

 大学等のオンライン授業においては、パソコンやインターネット接続環境など学生の情報環境格差の実態を十分に調査し、環境整備とセットで実施するべきである。

㉗学費の延納・分納・減額

 アルバイトの減少によって、大学等の学費負担が困難となる学生が増加している。各教育機関は学費の延納・分納・減額の制度を学生に周知するとともに、学生負担がより軽減する方向で改善すべきである。また、学費延納等を行なう高等教育機関に政府が公的に援助することが望まれる。

㉘奨学金返済が困難となった利用者の救済

 「内定切り」や収入減少によって日本学生支援機構の奨学金返済が困難となる利用者が今後増加することが予想される。全ての利用者・連帯保証人等に対し、少なくとも一年以上の期間、無条件に返済を猶予すべきである。

■債務問題

㉙債務支払の猶予を定める緊急措置

 個人、個人事業者及び中小企業の住宅ローンを含む債務支払い猶予を定めた法制度が緊急に必要である。 

㉚家賃の支払い猶予・給付金制度の提案

 個人の場合は、「住居確保給付金」の活用によって三カ月、最大九カ月の家賃の給付制度が利用できる。さらにフリーランスの利用を可能とするための運用改善が必要である。個人事業者、中小企業者には同給付金の仕組みを参考に、休業要請を受けた事業者に限らず収入減の事業者を対象とした制度の法整備を行なうべきである。

㉛個人債務減免の制度

 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインができている。今回の事態による失業等で支払困難となったとしても、本人に帰責性はなく、少なくとも同ガイドライン以上の配慮をともなった債務整理の制度創設が必要である。